| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-222  (Poster presentation)

安定同位体ラベリングによるヤドリギとその宿主間の炭素・窒素循環の解明【A】【B】【E】
Carbon and nitrogen transfer from host tree to Viscum album var. coloratum using the stable isotope pulse labelling techniques【A】【B】【E】

*村田紗也, Daniel EPRON, 檀浦正子(京都大学)
*Saya MURATA, Daniel EPRON, Masako DANNOURA(Kyoto Univ.)

ヤドリギ(Viscum album var. coloratum)は落葉樹に寄生する常緑の半寄生植物である。その活発な蒸散が宿主木の水ストレスを高め、致死率にも影響することが知られている。先行研究では、ヤドリギに宿主由来のアミノ酸や光合成産物の蓄積があることも報告されていて、ヤドリギによる炭素・窒素化合物の搾取が宿主に影響を与えている可能性がある。本研究では宿主木からヤドリギへの炭素・窒素化合物の輸送について、師管を通じて糖などの光合成産物を得ている(仮説1)かどうか、また、導管を通じて水と共にアミノ酸を得ている(仮説2)かどうかを示すために、安定同位体ラベリング法を用いて宿主木に炭素と窒素のトレーサーを取り込ませ、その移動を追跡した。実験は京都大学構内にあるケヤキとその幹に寄生するヤドリギを対象とし、2022年7月に実施した。宿主木の枝の一部をビニールチャンバーで覆い、13CO2をチャンバー内に充填することで炭素ラベリングを、同個体の直下の土壌に(15NH4)2SO4を溶かした水を散布することで窒素ラベリングを行った。その後、ヤドリギの葉、ヤドリギに最も近い枝のケヤキの葉を1か月間、ヤドリギ直下のケヤキの樹皮を4日間採取し、IRMSによって各サンプルの炭素・窒素の同位体比を測定した。加えて、ラベリング1~3日後のケヤキ樹皮とヤドリギについては可溶性化合物・タンパク質・デンプンを精製により分離し、同様に炭素安定同位体比を測定した。結果として、ラベリング32時間後のケヤキ樹皮とヤドリギで同時に炭素のトレーサーが検出された。ケヤキ樹皮とヤドリギではラベリング後32~56時間後までの間に可溶性化合物とデンプンでも炭素トレーサーが検出された。これらの結果は、ヤドリギが直接宿主の師管から糖などの光合成産物を摂取しているという仮説1を支持している。一方、窒素トレーサーはいずれのサンプルからも検出されず、ラベリング成功の可否もわからないため、仮説2を検証することはできなかった。


日本生態学会