| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-232 (Poster presentation)
八甲田山は過去の人為的攪乱によって生じた広大なブナ二次林が存在する多雪山地である。現在気候変動が進むにつれて、ブナの分布範囲は暖かい地域で減少し、涼しい地域へと拡大していくことが予想されている。しかし、日本でブナについて標高差に着目し、実際に更新が異なるかを調べた研究はない。そこで本研究では、低標高地域と比べて高標高地域で更新が良いという仮説を検証した。
八甲田山の標高331mから992mにかけて15箇所の調査地点を設定し、各調査地点に25m×25mの調査区を2つずつ設置した(992mでは1調査区のみ)。各調査区で樹種、胸高直径(DBH)、幼木(DBH<2cm)の個体数、ササの被度を記録した。また、各調査区でリタートラップを2つずつ設置し、ブナ種子を回収し、充実種子数をカウントした。
解析は主に林内放牧が行われていた十和田地域と択伐や炭焼きが行われていたと推定される青森地域に分けて行った。十和田地域では、若木と林冠木の割合であるJ/C ratioは高標高地域ほど値が大きくなった。また、胸高直径階分布を累積関数(y=ax^b)で近似し、係数aとbを調べた結果、高標高地域ほどaの値は増加し、bの値は減少した。さらに一般化線形混合モデルにより、幼木の個体密度と標高との間に有意な正の相関が確認された。これらのことから、十和田地域では高標高地域ほど更新が良いことが示唆される。一方、青森地域では、J/C ratio、係数aとbの分析、一般化線形混合モデルの全てについて標高との有意な正の相関は見られず、いずれの値も更新が不良であることを示した。よって、青森地域では全地点で更新が悪く、標高間で差がないことが示唆される。種子の総数及び充実種子は低標高地域で有意に多かった。また、更新の程度との間に負の相関が認められた。
林内放牧を主体とする人為的攪乱と気候変動の相互作用が十和田地域の高標高地域で更新を促進している可能性がある。また、種子生産量が更新に与える影響は小さいと考えられる。