| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-234 (Poster presentation)
北海道にはアイヌが先住民として暮らしている。先住民は利用している土地と深いつながりを持ち、環境保全に有益な知識を保有しているが、開発などの社会的要因やそれに伴う景観変化によって、従来とは異なる暮らしを強いられている。先住民が住んでいる北海道のような地域において、先住民が利用してきた土地の価値や、開発に伴う景観変化が先住民に与える影響を明らかにすることは、土地の保全上の重要性や先住民の権利を主張する上で重要である。本研究では、北海道平取町において、アイヌ文化に関わる土地の価値と、社会的要因に伴う景観の変化がアイヌ文化に与えた影響を、3 つの行程を通して明らかにした。まず、開拓期以降の景観構造の変化を明らかにするために、1920年以降の土地利用図を作成した。また、資源量と質(利用可能な資源量と利用の多様さ)、アクセス(資源の入手のしやすさ)、歴史的重要性(人々の経験に基づくその場所の価値)を、「アイヌ文化を支える景観要素が持つ機能」として定量化することで、土地の価値が景観を通じてどのように変動したのかを明らかにした。最後に、景観変化に繋がる社会的要因と考えられる開発行為の発生時期とその内容を把握した。以上の行程をふまえてアイヌ文化を支える景観に影響を与えた要因を分析した。
「アイヌ文化を支える景観要素が持つ機能」は 3 つの機能それぞれで変化した要因と年代が異なっていた。「資源量と質」は、特に 1950-1970 年代の拡大造林によって減少し、「歴史的重要性」は 1950 年以降の区画整備や 1950-1970 年代の拡大造林によって減少した。こうした機能の減少は、アイヌ文化に対して負の影響があったことが示唆された。一方「アクセス」は、開発による大きな変化は見られなかった。今後は「資源量と質」の向上にむけた人工林の広葉樹林化や、「歴史的重要性」が残っている景観の保全や再構築の検討が必要である。