| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-237 (Poster presentation)
人為攪乱に由来する森林劣化と減少は、熱帯林で広く進行しつつある。劣化した熱帯二次林では、地上部バイオマス(AGB)の低下、林冠木の稚樹や実生の減少と種組成の変化が観察されている。これまで人為撹乱が植生に及ぼす影響が広く調べられてきたのに対し、植生の変化を介した土壌への波及効果は未だ解明されていない部分が多い。本研究は、マレーシアサバ州の木材生産林(Deramakot、Tangkulap保護区)を対象にして、フィールド調査と衛星画像による時系列解析を合わせて、伐採強度、森林更新、土壌炭素貯留量変異の関係を調べた。
フィールド調査は、伐採履歴の異なる森林パッチ、合計36プロットで行った。各プロットにおいて、表層から30cmまで10cmごとに土壌を採集し、土壌炭素、重量含水率、pH、酸化還元電位を測定した。また、2018と2019年で行った植生調査データを用いて、DBH(胸高直径)1cm以上の樹木を対象にして、林冠木の主要種の直径階分布を作成して、歪度を算出し、森林回復の指標として用いた。歪度の値が正方向に大きい程、高木に対して稚樹の割合が多いことを意味し、新規加入で森林が回復することを示す。。伐採強度については衛星画像の時系列解析により評価した。1988年からのLandsat衛星画像を用い、正規化燃焼率(NBR)を指標にして、各プロットにおけるもっとも直近な攪乱の時期と強度(ΔNBR)を推定した。ΔNBRが大きい程、攪乱強度も高いと考えられる。
伐採強度は林冠木の歪度に負の関係にあり、伐採強度が高いほど新規加入とAGBの増加が遅れることが示唆された。回復が停滞した森林において、表層から30cm深の土壌の炭素貯留は有意に低下した。一方、そういった森林では、土壌の還元化、土壌含水率の上昇(表層10cm)、pHの上昇、非晶質鉄濃度の低下(0から20cm)が見られた。AGBの低下により、リター加入と蒸発散の低下がして、さらに土壌の還元化と非晶質鉄の還元的溶解を介して、深層土壌の炭素貯留が低下したと考えた。