| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-238 (Poster presentation)
レクリエーション活動における人間と野生動物の適切な関係を考えるためには、人間活動による影響評価が重要である。身近なレクリエーション活動の一つである登山活動は、登山者の存在と登山道の設置によって野生動物の生息地利用に影響を与えている可能性がある。本研究では、食肉目に着目し、低山帯における登山活動が彼らの時空間的な生息地利用に影響を与えるかどうかを検証した。
調査は山形県庄内地方の4つの低山地域で、2022年7月から11月にかけて行った。登山道と周辺林内にカメラトラップを設置し、撮影された動画から種の同定と撮影時刻の抽出を行った。このデータを用いて、食肉目が登山者を避けた活動時間を示すのかを、カーネル密度推定によって解析した。また、食肉目が登山活動を避けた空間利用を示すのかを、各種の撮影頻度を登山活動の指標(登山道かどうかと相対登山者数)と環境要因(傾斜角、TPI、周辺広葉樹林率)で説明する一般化線形混合モデル(GLMM)によって解析した。このとき、時間帯に応じた空間利用を考慮するために、昼間、夜間、薄明薄暮における空間利用についてもGLMMを構築した。
食肉目と登山者の活動時間を解析した結果、食肉目は夜間の活動が多い一方で、登山者は日中の活動が多く、その重複度は低かった。空間利用の解析によると、登山道の存在が全ての食肉目に正の影響を与えており、クマ以外の食肉目において最も重要な要因であった。また、登山者の存在も一部の種に負の影響を与えており、テンとタヌキは昼間や薄明薄暮に登山者の少ない場所を利用し、イタチとキツネ、アナグマは夜間であっても登山者の少なかった場所を利用する傾向にあった。これらの結果から、食肉目の時空間的な生息地利用は、登山活動の影響を種に応じて複合的に受けていることが示された。