| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-241 (Poster presentation)
気象庁は過去約70年にわたり生物季節観測を行ってきたが、都市化等の影響により観測対象種の発見が困難になったことを理由に、2020年に動物を対象とした全観測を廃止した。富山地方気象台はこれまで多くの動物が観測対象とされてきた気象台の一つであり、周辺には緑地が多く現存する。近年、野外での生物の発声をとらえることを目的とした録音技術の急速な発達により自律型録音装置(ARU)を用いた生態研究が盛んに行われている。生物季節観測の観測方法には、初鳴日の観測があり、廃止された観測の約6割を占める。観測にARUを用いることで、観測に費やす人的労力を抑え、観測を継続することができると考える。廃止された観測項目には、セミ類の初鳴日がある。セミの初鳴日は近年、早期化傾向を示しており、地球温暖化の影響を反映していると考えられていることからも重要性が高いと言える。そこで本研究は、観測対象のセミ類に着目し、音声解析ソフトを用いて得られた録音データからセミの鳴き声の検出を試み、音声解析ソフトの検出性能とARUによるセミの初鳴日観測の有効性を検証した。富山市の環境の異なる6地点にARU (Wildlife Acoustics inc.)を設置し、セミが鳴き始める初夏から鳴き声が終焉を迎える初秋までの毎時間最初の5分間を録音した。合計約936時間の音声データが得られた。次に音声解析ソフトを用いて得られた録音データから、ニイニイゼミ、アブラゼミ、ツクツクボウシの鳴き声を検出し、その精度を調べた。その結果、録音地点間で検出精度と初鳴観測日にバラツキが生じることが分かった。このバラツキは、設置地点の周辺で発生する環境音や対象種の個体数がおもな原因であると考えられた。