| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-242 (Poster presentation)
これまで都市が野生生物にとってどのような環境であるかについては行動学や生態学など様々な分野で議論されてきた。近年では生理学的手法を用いた研究が注目されている。行動や繁殖は生理学的メカニズムにより制御されており、これらの変化が生じるよりも前に生理応答が変化すると考えられている。そのため、潜在的な影響の評価として、生理応答を定量化する試みが行われている。しかし、既存研究ではストレス評価の指標であるグルココルチコイドに焦点を当てた研究が多く、繁殖と関係が強い性ホルモンについてはほとんど評価されてこなかった。そこで、本研究では特定外来生物に指定されているクリハラリスを対象に、メスの繁殖に特異的な性ホルモンであるプロゲステロン(以下、P4)濃度と景観構造を用いて定量化した都市化の程度(以下、都市度)との関係を解析し、都市環境が野生生物に与える潜在的な影響を明らかにした。また、繁殖と栄養状態は強い関係性があるため、個体の栄養状態と都市度の関係も明らかにした。P4や栄養状態は本種の餌資源が減少するであろう冬季に、より都市の影響を受けやすくなる可能性があるため、変数に季節および都市度と季節の交互作用を加えて解析した。その結果、都市度と季節は体毛P4濃度に影響を与えていただけなく、都市度と季節の交互作用も関係していた。このことから、餌資源が減少するであろう冬季でのみ、森林から都市にかけて体毛P4濃度が減少することがわかった。また、栄養状態についても、都市度と季節は栄養状態に影響することが明らかになったが、都市度と季節の交互作用も影響が見られた。そのため、餌資源が減少するであろう冬季においてのみ、森林から都市にかけて栄養状態が悪化することが明らかになった。これらのことから都市では季節によっては餌資源が乏しくなり、繁殖状態も悪化していることが示唆された。