| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-248 (Poster presentation)
ハナムグリ類は世界中に広く分布し、その幼虫はリターを摂食する大型土壌動物である。近年、ハナムグリ類の幼虫がリターの無機化を抑制している可能性が指摘されているが、定量的研究は皆無である。本研究では、日本の森林において個体数の多いカナブンPseudotorynorrhina japonicaを材料とし、本種の幼虫がリターの無機化に与える影響を定量的に明らかにすることを目的とした。そのために、①野外での土壌温度環境や幼虫の生息密度、②野外での幼虫の摂食・排泄・成長量、③リター・糞の無機化速度と温度依存性、の3つの測定を行った。これらの結果からモデルを作成し、リターの無機化に対してカナブンの幼虫が与える影響を定量評価した。
調査と野外実験は、広島県内の広葉樹林で行った。幼虫の生息密度を調べ、データロガーを用いて土壌温度も約二年間継続的に測定した。野外での幼虫の摂食量・排泄量・成長量の測定は、円筒型の缶にリターと幼虫を入れて野外に設置し、一定期間後に重量の変化を調べた。リター・糞の無機化速度は、それぞれのCO₂放出速度を、赤外線ガス分析装置を用いたOpen-Flow法によって測定し、炭素換算することで求めた。また、段階的にサンプルの温度を変化させて無機化速度の変化を測定した。
幼虫は、三齢期に盛んにリターを摂食し、糞も多量に排泄した。重量あたりの糞の無機化速度はリターに比べ著しく低かった。リター・糞の無機化速度の温度依存性をベースにし、現地で測定した温度のデータを使用して炭素フローを予測するモデルを作成した。さらに摂食・排泄・成長量を考慮した、幼虫がいる場合といない場合の面積あたりの炭素フローを計算した。一年後の炭素の残存量は、幼虫がいる場合でより多く減少した。しかし、二年後には一年目に幼虫がいた方で炭素残存量が多くなることが予測された。この結果は、長期的に見ると幼虫の摂食がリターの無機化を抑制する可能性を示唆するものである。