| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-250 (Poster presentation)
ボルネオ熱帯雨林は季節性の乏しい高温多雨な環境下にあり、年間を通じて盛んに蒸発散を行っている。そのため、地域の水循環に多大な影響を与えている。一方で、エルニーニョ・南方振動(ENSO)が発生すると熱帯雨林を取り巻く様々な気象要素が変化し、特にエルニーニョ時には平常時と比較して降雨量が減少し乾燥条件となることが知られている。その際、地域の水循環に変化が生じることが予想される。しかし、ボルネオ熱帯雨林の蒸発散の構成要素にエルニーニョが与える影響を観測に基づき検討した研究はこれまで存在していない。そこで本研究では、ボルネオ島北東部にあるランビルヒルズ国立公園において、渦相関法による10年間のタワーフラックス観測および熱消散法による4年間の樹液流計測を行った。そして、それらのデータを基に群落全体の蒸発散量および蒸散量を推定し、2015/16年のスーパーエルニーニョ時の水循環の変化を検討した。その結果、スーパーエルニーニョ時には降雨量が減少し大気飽差が増加したにも関わらず、群落スケールでの蒸散量は大きく変化しなかったことが明らかになった。降雨遮断に伴う蒸発量は減少したため、蒸発散量に占める蒸散量の割合が増加した。これらの観測結果から、スーパーエルニーニョ時には蒸発散の内訳に変化が生じていたことを確認できた。また、ボルネオ熱帯雨林の乾燥に対する気孔閉鎖は限定的であり、乾燥条件であっても蒸散を維持する性質があることが示唆された。こうした水利用戦略は枯死リスクを高めることに繋がるため、ボルネオ熱帯雨林は乾燥に対して脆弱である可能性が示された。