| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-255  (Poster presentation)

吹通川マングローブ,海草,サンゴ礁生態系間の炭素・栄養塩循環【A】
Carbon and nutrient cycling among mangrove-seagrass-coral continuum in the Fukido estuary, Ishigaki Island, Japan.【A】

*中村航(東京大学), PHYOTHET NAING(Ministry of Natural Forest), 渡辺謙太(港湾空港技術研究所), 中島壽視(福井県立大学), 源平慶(港湾空港技術研究所), 杉本亮(福井県立大学), 宮島利宏(東京大学), 桑江朝比呂(港湾空港技術研究所), 佐々木淳(東京大学)
*Wataru NAKAMURA(the University of Tokyo), PHYOTHET NAING(Ministry of Natural Forest), Kenta WATANABE(Port and Airport Res. Inst.), Toshimi NAKAJIMA(Fukui Prefectural University), Kei GEMPEI(Port and Airport Res. Inst.), Ryo SUGIMOTO(Fukui Prefectural University), Toshihiro MIYAJIMA(the University of Tokyo), Tomohiro KUWAE(Port and Airport Res. Inst.), Jun SASAKI(the University of Tokyo)

亜熱帯域の沿岸部にはマングローブと海草,サンゴ礁が連続した景観を形成することが多い.マングローブや海草はブルーカーボン生態系としての機能が知られているが,亜熱帯の沿岸部ではサンゴ礁が波浪に対する緩衝地帯として機能することで,マングローブや海草場での炭素貯留に寄与していると考えられる.一方で,潮位変動に伴いマングローブ土壌からは,大量の無機炭素が流出していることが知られているが,隣接する海草場やサンゴ礁へ流出した無機炭素や有機炭素,栄養塩の動態については知見が不足している.
 本研究では,石垣島吹通川河口域にて係留系を用いた連続観測と,時空間的な採水を組み合わせることで,これらの生態系間の無機炭素,有機炭素,栄養塩循環の解明を試みた.水中CO2分圧,全溶存無機炭素,全アルカリ度は,上げ潮時にはマングローブ林にて,平均445 µatm,1978 µM,2218 µMだったが,下げ潮時には平均1766 µatm,2583 µM,2657 µMとなって流出していた.溶存有機炭素と粒子状有機炭素,栄養塩類(NO3-N,NH4-N,PO4-P)についても上げ潮時よりも下げ潮時に極めて高濃度で流出していた.また,空間的な採水結果より,マングローブから流出した無機炭素の影響は海草場では確認されたものの,サンゴ礁では外洋と近い値を示していた.一方,栄養塩については,下げ潮時にマングローブ起源だと考えられるアンモニア態窒素(NH4-N)濃度がサンゴ礁付近でも高濃度で確認された.また,炭素,窒素安定同位体(δ13CPOC,δ15NPN )の測定結果から,マングローブへ流入出するδ13CPOCとδ15NPNの値は,上げ潮時には約-20‰,2‰,下げ潮時には約-30‰,0‰と明確な差があった.これは,C3植物である陸上林やマングローブと,水中で生育するする植物プランクトンや海草,海藻,サンゴの粘液等の同位体比の違いを反映しており,吹通川河口域では異なる起源をもつ有機物が循環していると考えられる.


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