| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-256 (Poster presentation)
土壌微生物は陸域生態系の栄養塩循環や食物網の基礎となるなど重要な役割を果たしている。土壌微生物群集構造とそれを制御する要因について理解することは、環境変動に対する陸域生態系の応答を予測するために不可欠である。土壌微生物バイオマスや群集組成は、局所スケール、景観スケールともに気温や土壌特性といった非生物的や植物の形質などの生物的要因の影響を受けることが知られている。グラム陽性菌:陰性菌のバイオマス比 (GP:GN比)といった土壌微生物の生理や栄養状態の指標についても、局所スケールでは温度や基質の利用可能性といった要因に制御されていることが先行研究で確認されている。しかしながら、景観スケールにおけるこれら指標の変動や、環境要因に対する応答についてはほとんど知られていない。そこで本研究は様々な気候条件、土壌特性、植生を含む日本列島の森林18地点のデータを用いて、微生物の生理・栄養状態の指標を含む土壌微生物群集の特性の景観スケールでの変動を予測する統計モデルを構築した。土壌微生物群集の特性はリン脂質脂肪酸(PLFA)分析法によって測定した。菌類バイオマスとバクテリアバイオマスはそれぞれ土壌炭素(C)濃度、土壌窒素(N)濃度のみによって説明された。菌類:バクテリアのバイオマス比 (F:B比)は土壌C:N比によって最も説明された。一方で微生物群集組成(主成分分析の第一主成分軸)の変動と微生物の生理・栄養状態の指標は主に年平均気温と土壌pHによって説明された。今回の調査地ではリターのC濃度やN濃度、C:N比、樹木の多様性といった生物的要因は土壌微生物群集の特性に影響を及ぼさなかった。これらの結果から、日本列島の森林において土壌微生物群集組成と生理・栄養状態の指標は微生物バイオマスとは異なる要因の影響を受けること、生理・栄養状態の指標は景観スケールにおいて特に年平均気温の影響を受けていることが示唆された。