| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-257  (Poster presentation)

土壌中遊離型エルゴステロールと真菌由来リン脂質脂肪酸の関係【A】
Relationship between free ergosterol and fungal-derived phospholipid fatty acids in soil【A】

*竹本尚史, 熊田英峰, 梅村知也(東京薬科大学)
*Takashi TAKEMOTO, Hidetoshi KUMATA, Tomonari UMEMURA(TUPLS)

 土壌有機物が真菌や細菌により分解されCO2として放出される微生物呼吸は、地温の上昇により指数関数的に増加する。土壌微生物のバイオマスと真菌、細菌の存在比(F/B比)は土壌炭素収支に大きく関与するため、これらの正確な推定が重要となる。リン脂質脂肪酸(PLFA)には真菌、細菌が特異的に産生するバイオマーカーが存在し、PLFAの定量によりバイオマス、F/B比推定が可能とされる。遊離型エルゴステロールは真菌が特異的に産生するバイオマーカーであり、これの定量により真菌バイオマス推定が可能だと考えられるが、真菌由来PLFA濃度と遊離型エルゴステロールの相関は確認されていない。本研究では、土壌中遊離型エルゴステロールと真菌由来PLFAの濃度関係を調査することを目的とした。今回、Frostegård et al.(1991)のリン脂質抽出法を用いた、土壌中遊離型ステロール類の分析法を確立したので報告する。
 多摩丘陵コナラ林床土壌から抽出、シリカゲルカラム分画して得たステロール画分をトリメチルシリル誘導体化し、ガスクロマトグラフ質量分析計にて分析した。有機物層、A層土壌の抽出液を用いた繰り返し分析の再現性は、RSDが0.26~10%(n=3)であった。8地点の土壌の上層(0-5 cm)と下層(5-10 cm)でステロール類を測定した結果、エルゴステロールは上層で74.0-459 ng/g、下層で59.3-253 ng/g、コレステロールは上層で0.385-1.27 μg/g、下層で250-932 ng/g、β-シトステロールは上層で4.39-10.8 μg/g、下層で1.02-9.25 μg/gの濃度範囲での定量を達成した。土壌表層への有機物の供給により、上層のステロール濃度が下層の濃度より高くなると予想されたが、エルゴステロールでは8地点中3地点で高くならなかった。真菌の分布は、上記の理由だけにより決定されるものではないと考えられる。
 本法により、PLFAとステロール類の同時抽出を行い、ステロール類の分析定量分析が可能となった。今後は真菌由来PLFAと遊離型エルゴステロールの濃度関係を調査する。


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