| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-258 (Poster presentation)
樹木に必須元素であるリンは森林土壌中で様々な形態で存在する。リン形態の違いは土壌深度で顕著であり、一般的に土壌全リンに占める割合は表層の有機物層では有機態リンが多く、下層の鉱物層ではAlやFeに吸着したリン(Al,Fe吸着リン)が多い。また、リン獲得のための樹木細根側のアプローチは異なり、有機態リンはホスファターゼによって加水分解され、Al,Fe吸着リンは有機酸の分泌により遊離して植物に吸収される。しかし樹木細根が土壌リン形態に応じてリン獲得戦略を変えるのかは明らかではない。本研究では野外観察と栽培実験を行い、土壌深度によるリン形態変化が細根のリン獲得戦略に及ぼす影響を調べた。
野外観察では山梨県甲府市の愛宕山に優占するコナラを対象に上層と下層ごとに細根のホスファターゼ活性と有機酸分泌速度および根圏・非根圏土壌のリン画分濃度を調べた。ホスファターゼ活性は上層で、有機酸分泌速度は下層で高く、樹木細根が深度によって特異的に獲得するリン画分を分離している可能性が示唆されたが、土壌リン画分濃度との関係は見られなかった。
栽培実験では有機物層として愛宕山の表層土壌と鉱物層として鹿沼土を用いて3処理(1:混合, 2:上;愛宕山, 下;鹿沼土, 3:上;鹿沼土, 下;愛宕山)に分け、愛宕山で採取したコナラ種子を114日間栽培し、上層と下層ごと細根のホスファターゼ活性と有機酸分泌速度および土壌リン画分濃度を調べた。ホスファターゼ活性は全処理で下層で高いことに加えて土壌有機態リン濃度と正の傾向が見られた。有機酸分泌速度は全処理で下層で高いことに加え、下層の有機酸分泌速度は土壌Al,Fe吸着リン濃度およびその栽培前後の変化量と有意な正の関係であった。土壌深度により樹木はリン獲得戦略を変化させていることが示唆されたが、野外観察と栽培実験で一貫した傾向は見られず、実生と成木でリン獲得戦略は異なる可能性もある。