| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-259 (Poster presentation)
森林生態系においてリンは樹木にとって必須元素である。森林の表層土壌におけるリン濃度を求めた研究は多くあるが、これらの研究は土壌の表層ではリンは均一だと仮定しており、実際には表層土壌中でもリン濃度は空間的なばらつきがあると考えられる。さらに、養分吸収能の役割を持つ直径2㎜以下の樹木細根は土壌栄養塩可給性により形質を変化させることが知られているが森林表層土壌での細根形質のばらつきの程度は明らかでない。そこで本研究ではリン可給性の異なる森林において、表層土壌中のリン空間分布とそれに伴う細根形質の関係性が森林間でどう変化するのかを明らかにすることを目的とした。
先行研究を参考に全可給態リン濃度が大きく異なり、コナラが優占する同緯度帯の6つの森林を選んだ。2022年6月-8月に各森林調査地で、縦30m横40mの範囲で10m間隔で表層5㎝深の土壌を合計20サンプル採取した。採取した土壌をサンプルごとに2㎜のふるいを用いて細根と土壌に分け、細根形質として細根バイオマス、比根長、根長密度および細根直径を求めた。土壌可給態リン濃度をBrayⅠ法で求めた。細根形質と土壌リン可給態濃度を単回帰分析した。細根バイオマス、比根長、根長密度は平均可給態リン濃度が低いサイトで土壌可給態リン濃度と正の関係が見られ、特に回帰直線の傾きが大きかった。一方で平均可給態リン濃度の高いサイトでは細根形質と可給態リン濃度の関係は正でも傾きは小さくなる又は負の関係が見られた。平均細根直径は平均土壌リン濃度に関わらず全サイトで負の傾向を示し、傾きもサイト間で変化はなかった。
以上の結果より、平均可給態リン濃度が低いサイトでは局所的にリン濃度の高い地点で細根バイオマスを高めたり、比根長の高い根を分配するなどしてリン吸収能力を高めていることが示された。一方で、平均可給態リン濃度の高いサイトではリン欠乏度が下がるためその傾向が低リンサイトほど顕著ではないことが示された。