| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-262 (Poster presentation)
土壌呼吸はCO2の主要な排出源のひとつであり、生態系の炭素バランスに対する気候変動の影響予測にとって重要な要素である。土壌呼吸速度 (RS) は根圏の独立栄養生物による呼吸速度 (RA) と根圏以外の微生物 (従属栄養生物) による呼吸速度 (RH) に分けられる。RAとRHは地温、土壌含水率よって主に決定づけられる。本研究で対象とした亜高山帯は、今後大幅な気温の上昇が予想されており、気候変動に対しても潜在的に敏感であると考えられている。本研究の目的は地温・土壌含水率がRAやRHにどのような影響を与えているのかを明らかにし、今後の気候変動に対する高標高帯での土壌呼吸の変化を予測することである。
標高傾度にそったRAとRHの反応の違いを明らかにするために、乗鞍岳の亜高山帯 (1600~2800 m) の5標高でRAとRHを測定した。各標高で根の除去区を設定し、RHを測定した。無処理区の土壌呼吸速度 (RA + RH) からRHを引くことでRAを推定した。
RA , RHは全標高で地温と正の相関を示した。地温の上昇は、微生物の有機炭素の消費を増大させる。したがって、地温が高くなる夏にRHが高くなる季節変化があると考えられた。また、植物は夏に活発に光合成を行う。それに伴う土壌養分と水分の吸収のために根の伸長と呼吸も夏に高くなるため、地温の増加によって細根の成長が促進され、RAも増加したと考えられる。地温ほど明瞭な関係ではなかったが、土壌含水率もRA , RHと相関があった。
1600, 2500 mでは夏にRSに対するRAの寄与率が大きくなる季節変化があった。夏は光合成が盛んで細根のバイオマス量が多くなるため、RAが大きくなることが、夏のRAの寄与率が大きくなる要因である。2000, 2300, 2800 mでは、RAの寄与率の季節変化が見られなかった。これは、RAの測定期間が短かったため、季節変化を検出できなかったためと考えられる。一般に冬のRAの寄与率は大きく減少するため、年間を通じた調査によって季節変化の有無を調べることが必要である。