| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-263  (Poster presentation)

マングローブ林堆積物からの無機態炭素放出とそれを制御する環境要因【A】
Inorganic carbon efflux from the mangrove sediment and its controlling factors【A】

*伊藤河聞, 吉竹晋平(早稲田大学)
*Gamon ITO, Shinpei YOSHITAKE(Waseda Univ.)

マングローブ林は高い一次生産と小さな分解呼吸量から、非常に大きな生態系純生産量(NEP)を持つとされてきた。しかしマングローブ林は潮汐によって海水が定期的に地表面を覆うため、CO2の一部が水に溶けて溶存無機炭素(DIC)として系外へ流出する。タワーフラックス観測に基づく従来の研究では、このDICの流出を考慮していないためNEPを過大評価している可能性がある。近年、このDIC流出に関する報告が増えているが、堆積物表面からのDIC生成・放出メカニズムについての知見は限られている。そこで本研究では、マングローブ堆積物における冠水時と干出時の有機物分解速度の指標である、DICとCO2の放出速度に影響を与える主要な環境要因を明らかにすることを目的とした。
沖縄県石垣島のがぶるまた川の河口域に位置するマングローブ林から表層0-5 cmの堆積物試料を採取し、室内培養実験によってDICとCO2の放出速度を測定した。また、それらと堆積物の物理的・生物的環境との関係を解析した。
DICとCO2放出速度の平均値はそれぞれ、172±24.5および49.2±5.62 mg C m-2 h-1であり、DIC放出速度が有意に大きいことがわかった。これはマングローブ林の炭素循環においてDICの生成と流出が無視できないものであることを示唆している。また、DIC、CO2の放出速度と各環境要因との相関を分析すると、DIC放出速度は酸化還元電位が低いほど高くなる傾向を示した。一方で、CO2放出速度は有機物含量や川からの距離と有意な相関を示した。以上の結果から、CO2放出速度は有機物が沈澱しやすい川沿いの箇所で大きいことが考えられたが、DICの場合には当てはまらないことがわかった。本発表では、マングローブ林の有機物分解が冠水時と干出時で、環境要因によってどのような異なる制御を受けるかについても議論する。


日本生態学会