| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-266 (Poster presentation)
森林土壌表層に位置し、生物活性が非常に高い「有機物層」は、森林生態系における炭素循環に重要な役割を果たしている。有機物層における炭素動態はリターフォール(LF)と林内雨DOC(溶存有機炭素)(TF-DOC)による炭素供給、分解呼吸(CO2)と浸出液DOC(LL-DOC)による炭素放出から構成される。しかし、多くの先行研究ではDOCフラックスは無視されてきた。そこで本研究ではコナラ林(Q)、カラマツ林(L)、アカマツ林(P)の三林分の有機物層を対象に、炭素供給・放出におけるDOCの寄与を含めた炭素動態を明らかにすることを目的とした。
本研究は早稲田大学軽井沢試験地で行った。2021年7月から一年間、有機物層の炭素量と、LFやTF-DOCによる炭素供給フラックス、CO2やLL-DOCによる炭素放出フラックスを定量した。
年間LFはQ, P, Lの順に大きかったが、年間TF-DOCはQに比べLとPが約3倍大きかった。これらの結果は主に種としての特徴が反映されたものであると考えられた。炭素供給に占めるTF-DOCの寄与を計算すると、LFが小さくTF-DOCが大きかったLとPで高くなった(3–4%)。CO2放出量はP, L, Qの順に大きかったが、これは有機物層に存在する炭素量の違いを反映していると考えられた。LL-DOCはPで特に大きく、これは有機物層の炭素量の違いに加えて、リターの化学的な質の違いに強く影響されていると考えられた。炭素放出に占めるLL-DOCの寄与を算出すると、Pで比較的大きかった(12%)。以上の結果から、炭素動態におけるDOCの寄与は概して低いものの(<12%)、優占樹種により異なる事が明らかとなった。また、上記4つのフラックスを定量することにより、各林分の有機物層における炭素動態を再現できた。