| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-267 (Poster presentation)
リター(生物遺体)の分解は重要な生態系プロセスの一つであり、分解速度はリターの質、環境条件、分解者の群集組成の3要因に大きく影響されることが、主に維管束植物を対象に明らかにされてきた。一方、森林生態系内には、維管束維管束植物と異なる形質を持った地衣類や蘚苔類を主とする非維管束植物も多数存在するが、樹木の枝や幹などに着生し、地上から見えない場所にもハビタットを持っているため、生態系プロセスに与えうる潜在的重要性が見落とされてきた。そこで本研究では、地衣類・蘚苔類のリターの分解特性および他のリター分解に与える影響を明らかにするために、地衣類・蘚苔類が多数着生している京都大学芦生研究林のカツラの巨樹(樹高38m)において、地衣類、蘚苔類、維管束植物のリターを用いた単種および混合リターバッグ実験を3ヶ月間と12ヶ月間実施した。実験ではカツラの樹冠上部と中間部の林冠土壌、および地上にマイクロサイトを設定し、リター分解に影響を与えうる環境条件を観測した。
マイクロサイト間の環境条件は異なり、地上から樹冠上部にかけて土壌体積含水率は低く、土壌温度は高く、開空度は高くなった。3ヶ月間の単種リターバッグ実験の結果、樹冠中間部の林冠土壌および地上において、地衣類と蘚苔類は維管束植物よりも分解されにくかった。マイクロサイト間の比較において、地衣類と蘚苔類の分解は同程度であった。12ヶ月では、樹冠中間部の林冠土壌において蘚苔類が最も分解されにくく、次いで地衣類が維管束植物よりも分解されにくかった。また、地上と樹冠中間部の林冠土壌において、蘚苔類は地衣類よりも分解されにくかった。3ヶ月間の混合リターバッグ実験の結果、地上において(地×維)と(地×蘚)の組み合わせで分解抑制効果が見られた。またマイクロサイト間では、3ヶ月と12ヶ月ともに混合リターの分解は、地上において最も抑制される傾向にあった。