| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-269 (Poster presentation)
森林生態系は大気中の二酸化炭素の吸収源として重要な役割を果たしている.日本においては都市圏に全人口の8割が居住し,そこには多くの里山林(全里山林の3割)が残されている.特に高度経済成長期以降,エネルギー源の変化や都市化によって,放棄された里山林が増加し,生態系サービスの低下が危ぶまれている.本研究では,地球温暖化に関わるCO2吸収機能に着目し,都市域に残された里山林(玉川学園キャンパス)の炭素吸収量(純一次生産量)を明らかにすることを目的とした.
調査は東京都町田市の玉川学園キャンパス内の林分を対象とした.事前の踏査により林分タイプを7つ(クヌギ・コナラ管理林,コナラ放棄林,コナラ・シラカシ放棄林,スギ植林,ヒノキ植林,クスノキ植栽,モウソウチク竹林)に区分し,それぞれの被覆面積をドローンによる空撮とその画像解析により算出した.また,各林分にコドラートを設置し毎木調査を行い,単位面積当たりの炭素吸収量の推定を行った.
本研究の結果,学内の総面積63.7 haに対して,森林の被覆面積は28.8 haで総面積の45.2 %を占めた.各林分タイプにおいては,コナラ・シラカシ放棄林が最も多く(18.4 ha),森林全体の64.1 %を占めた.次いでクヌギ・コナラ放棄林 (1.3ha),モウソウチク竹林(1.2ha)が多かった.単位面積当たりのCO2吸収量はクスノキ植栽が最も高く(4.3 t ha-1),次いでスギ林(3.7 t ha-1),コナラ・シラカシ林(3.1 t ha-1)が高かった.これらの結果を統合し,推定された学園全体の炭素吸収量は70.4 tとなり,被覆面積の大きかったコナラ・シラカシ放棄林の吸収量が82%を占めていた.しかし,本研究結果は約8か月間(5月~12月)の調査データを基に算出していること,またモウソウチク林(森林被覆面積の4.1%)や7つの区分に含まれたかったその他の林分(16.9%)の吸収量が評価されておらず,今後のさらなる研究が期待される.