| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-273 (Poster presentation)
人間活動による自然環境の利用拡大が生物多様性を低下させる例は多い。生物多様性は種の豊富さである分類学的多様性と生態系の働きに影響する要素の多様さである機能的多様性で評価できる。分類学的多様性と機能的多様性がともに豊かであると生態系が安定化し、環境の変化に対する抵抗性が高くなることが知られている。沿岸部での主な人間活動である養殖は水質や餌資源などの環境の変化を通じて、湾内に生息可能な魚種を選別し、魚類の群集構造や多様性を変化させていると考えられる。先行研究では予想に反し、養殖・非地域間で分類学的多様性に有意な差はなく、機能的多様性はむしろ養殖地域の方が高かった。このような養殖の多様性への影響は養殖の生産量や生産種によっても異なると考えられるが、それを確かめた例はない。三陸地域では海岸線150kmに20以上の湾が存在し、湾を利用して様々な種類の養殖が盛んに行われている。湾ごとの養殖の生産量や生産種の違いは潜在的に湾間で類似している群集構造や多様性を変化させている可能性がある。本研究は三陸の20湾の魚類における分類多様性と機能的多様性が湾ごとの養殖生産の種や量、水質によってどのように異なるかを評価した。魚種の推定には環境DNAを用いた。三陸の20湾の各湾の沿岸部の3地点の計60地点から環境DNAをサンプリングし、メタバーコーディングによって魚類の種ごとのDNA量を得た。水質は調査時に各地点で計測した。養殖種のデータには各湾の種ごとの年間養殖生産重量を用いた。採取された環境DNAから湾ごとの魚類の分類多様性と機能的多様性を解析した。分類学的多様性はサンプルデータから検出された種類を計数した。また、環境DNAのうち種まで解析できたものを用いて、体長、栄養段階、回遊型、生息域、食性の要素をもとに機能的多様性を推定した。発表では養殖の種類・生産量と分類学的多様性・機能的多様性との関係を報告する