| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-280 (Poster presentation)
集団内での遺伝的多様化は、種分化の始まりといえる。一方、生物がそれぞれの生息地において存続し環境に適応するなかで、突然変異を通じて遺伝的な多様性の空間的な分布が形成される。先行研究では、集団内の遺伝的多様性「α多様性」と集団間の遺伝的分化「β多様性」について、それぞれの空間的な分布の種間での違いが、各種の形質や住んでいる環境によって説明されることが示されている。しかし、先行研究で扱われている分類群は少なく、また特定の形質のみに注目しており、遺伝的多様性に影響を与える複数の要因の相対的な重要度や、結果の普遍性は不明である。そこで本研究では、文献調査とBOLDシステムをもちいたバーコード領域COI解析の2つのメタ解析を行い、その結果を比較することで解析の妥当性を評価した。文献調査では、既存の論文から生物集団の遺伝的多様性の指標を抽出し、対象種の形質情報を追加したデータセットを作成した。α、β多様度それぞれを目的変数、形質と環境を説明変数として、GLMMによって解析した結果、α多様性は分散力と体サイズ、気候区分により説明され、なかでも気候区分が最も重要であることが示された。一方、β多様性は分散力と食性、気候区分によって説明され、食性と気候区分が最も重要であることが示された。COI解析では、BOLDから得た配列情報から種毎にα、β多様性を算出し、分類群間で比較した。その結果、α多様性は分散力が高く産卵数の多い分類群で高く、β多様性は分散力が低く水辺に生息する分類群で高かった。また、生息環境を考慮した解析では、多くの分類群が気候区分の影響を受けていた。さらに、分散力の高い分類群で、生息地における標高のばらつきと遺伝的多様性に正の相関がみられた。2つの解析の結果を組み合わせると、気候区分は遺伝的多様性に最も影響を与えるパラメータであることが示された。