| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-286 (Poster presentation)
昆虫-微生物共生系における共生関係の維持機構は、宿主の親から子へ世代を経て共生微生物が受け継がれる垂直伝播と、環境からの獲得による水平伝播に大別される。木材は、難分解性成分に富み、かつ貧栄養であるため、動物単独では利用困難な資源である。カミキリムシ科ハナカミキリ亜科甲虫(以下、ハナカミキリ)は材依存性で、酵母と共生する。共生酵母は、難分解性の木材関連糖類に対する資化能力を有することから、幼虫による材の消化を酵母が助ける消化共生関係であると予想されている。メス成虫は、産卵管基部に管状の共生器官(盲嚢)を有し、酵母を保持、運搬する。酵母は垂直伝播されると考えられているが、今日のハナカミキリ-酵母共生系が、垂直伝播、水平伝播、あるいはその両方の影響を受けた結果かどうかは不明である。本研究は、ハナカミキリ-酵母共生系の成立と共生酵母の伝播様式の関係を明らかにすることを目的として、26属39種のハナカミキリについて、北海道と中部地方を中心に、共生パターンの地理的変異を調査した。その結果、ハナカミキリの種によって、地域間で共生酵母が共通する場合と異なる場合、その両方が見られる場合の3パターンのいずれかに分けられ、酵母に対する種特異性の強弱が見られた。複数のハナカミキリと共生する酵母2種について遺伝的変異を調べたところ、ハナカミキリの種特異的に検出される系統と、種によらず検出される系統が見られた。以上より、各地域のハナカミキリ-酵母共生系は、垂直伝播と水平伝播の両方の影響を受けて成立していることが示唆された。