| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-288  (Poster presentation)

南西諸島に産するタイワンアシナガバチの色彩・斑紋多型と集団遺伝構造【A】
Color polymorphism and population genetic structure of a paper wasp, Polistes formosanus, at the Nansei islands, Japan.【A】

*三浦杏奈(茨城大学), 松尾拓己(東京大学), 諸岡歩希(茨城大学)
*Anna MIURA(Ibaraki Univ.), Takumi MATSUO(Tokyo Univ.), Fuki MOROOKA(Ibaraki Univ.)

日本の南西諸島に生息するアシナガバチ属 Polistesのうち、タイワンアシナガバチ (Polistes formosanus)を始めとする 4種では、色彩と斑紋に地域ごとの多型と収斂がみられる。同所的に生息する他の昆虫類でも同様の傾向があり、このような”ハチ擬態”の例は多数観察されている。特にアシナガバチなどのカリバチ類は擬態のモデルとなっている可能性が高く、ハチ同士の色彩や斑紋の多型及び収斂の成立過程の解明は、多くの昆虫類の表現型の進化について重要な知見をもたらしうる。よって、よりバイアスの少ない非計量多次元尺度法解析(NMDS)により、南西諸島のアシナガバチ類4種の色彩・斑紋における多型の傾向を詳細かつ客観的に調査した。また、南西諸島でもっとも多くの島に優占的に分布するタイワンアシナガバチについて、MIG-Seq解析によって一塩基多型(SNPs)を特定し、個体群間の系統推定を行うとともに、本種の南西諸島への分散と遺伝構造、並びに表現型の多型との関連について考察した。
解析の結果、4種のうちタイワンアシナガバチを含む3種では色彩と斑紋のパターンが3つに大別され、残る1種では概ね一様のパターンを示した。この傾向は島の地理的配置と一致せず、タイワンアシナガバチでは遺伝構造の解析結果とも一致しなかった。従って、地理的・遺伝的要因だけでなく、擬態など生物的要因によって色彩や斑紋のパターンが形成されている可能性がある。また、タイワンアシナガバチの南西諸島への分散は100万年以上前と推定され、多型パターンの由来は、地理的に近い地域からの分散や過去の地史的な条件など、地域ごとに異なることが示唆された。


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