| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-296  (Poster presentation)

水田メソコスムを用いてトンボ類に対する殺虫剤影響を評価する【A】
Evaluating insecticide effects on Odonata using paddy mesocosms【A】

*武藤光紀(新潟大学・理), 小川晶史(新潟大学・院・自然), 篠田隼(新潟大学・農), 鎌田泰斗(新潟大学・農), 関島恒夫(新潟大学・農)
*Koki MUTO(Niigata Univ. Sci.), Akifumi OGAWA(Grad. Sch. Sci. Niigata Univ), Shun SHINODA(Niigata Univ. Agri.), Taito KAMATA(Niigata Univ. Agri.), Tsuneo SEKIJIMA(Niigata Univ. Agri.)

水田は生物多様性が高い景観要素として知られているが、圃場整備や農法などによる水田環境の変化により水田生物の生息環境の悪化が懸念されている。特に、標的外生物に対する殺虫剤曝露は、生物多様性低下の主な原因の一つと考えられている。トンボ類は水田生態系を代表する生物の1種群であるが、水田に依存する種の多くは現在、絶滅の危機に瀕している。トンボ類に対する殺虫剤の影響として、これまでに幼虫個体数の減少や羽化数の低下といった影響が報告されており、水環境に依存する幼虫期を通して影響を与えることが明らかとなっている。また、これらの影響には、殺虫剤曝露による直接効果だけでなく、餌生物の減少を介した間接効果も含まれており、殺虫剤影響はトンボ種や薬剤特性によって異なる可能性がある。
われわれは、トンボ類に対する殺虫剤影響を解明するために、わが国で汎用的に用いられているネオニコチノイド系殺虫剤クロチアニジンおよびジアミド系殺虫剤クロラントラニリプロールを対象に、水田メソコスムを用いた殺虫剤曝露実験を行った。そのなかで採集されたトンボ類のうち、個体数が多く定量的な解析が可能であったショウジョウトンボとシオカラトンボを対象として影響評価を行った。その結果、ショウジョウトンボでは、両殺虫剤処理区において、老齢幼虫における翅芽の矮小化、羽化率の低下、および餌生物の減少を介した個体数の減少が確認された。また、シオカラトンボでは、クロチアニジン処理区において、羽化率の低下と、殺虫剤の直接効果および餌生物の減少を介した老齢幼虫個体数の大幅な減少が確認され、クロラントラニリプロール処理区において、老齢幼虫における体長の矮小化、羽化率の低下、および餌生物の減少を介した個体数の減少が認められた。殺虫剤曝露による応答の差異を理解するには、より多くの種に対する曝露実験を通し、幼虫期のマイクロハビタット、生活史、餌利用、および系統などの観点から整理する必要があると思われる。


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