| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-301 (Poster presentation)
異なる系統で似た表現型が進化するとき、その表現型に関わるゲノム領域も系統間で似る場合がある。では、様々な表現型が関連していると考えられる収斂進化、特に収斂進化の代表的な例の1つである哺乳類のニッチの収斂が起こった種間では、そうでない種間に比べてより多くの分子収斂が起こっているのだろうか?
先行研究では、海や地中への収斂進化が起こった種間とそれ以外の種間を比較した場合で、検出された分子収斂数に有意な差は見られなかったことが報告されている。しかし、有意差が見られなかった原因としては仮説が誤りである可能性のほか、検出された分子収斂に多くの偽陽性が含まれていた可能性も考えられる。特に、先行研究で用いられた手法は(1)中立的に起こる収斂置換の影響をほとんど考慮できていない(2)系統樹の樹形の推定に誤りがあると共通祖先で起こった置換を収斂置換と誤検出してしまうという2つの問題点を抱えているため、ゲノムワイドに検出を行った場合には真の分子収斂よりもずっと多くの偽陽性が生じる可能性が考えられる。
そこで本研究では、より多くのニッチに着目しつつ、上記の2つの問題点を考慮し偽陽性を抑えた上で仮説を再検証することを試みた。対象種としてはアフリカ獣上目とローラシア獣上目の種間で食性や生息環境などの収斂が報告されている5組を選んだ。分子収斂の検出法としてはFukushima and Pollock(2023)によって開発されたCSUBSTを用いた。この手法は、同義置換と非同義置換の両方を用いた上で、観測された収斂置換数を期待される収斂置換数で補正することで、上記の2つの問題点を克服している。そして、異なる上目の種間に対してCSUBSTを用いて網羅的に分子収斂を検出し、ニッチの収斂が報告された種間で分子収斂がより多く検出されるかを検証した。本発表では仮説の検証結果を報告するとともに、分子収斂が検出された遺伝子とニッチとの関係についても議論したい。