| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-304 (Poster presentation)
カマキリなどの昆虫は,「捕脚」と呼ばれる獲物の捕獲に特化した前脚を持つ.昆虫では複数系統で捕脚が独立に進化しており,機能的収斂として知られている.機能的収斂は形態的収斂を伴うことがあるが,昆虫の捕脚形態を系統間で比較した研究は少なく,それらの類似度は定量的に評価されていない.
複数の生物群で形態が類似する方向に進化した場合,形状空間上で祖先形態から捕脚形態へ(1)平均形態の移動,(2)形態の分散の減少,(3)進化方向の類似が生じうる.本研究では,昆虫の各系統における捕脚形態は類似しているという仮説を立て,捕脚を持つ昆虫とそれに近縁で捕脚を持たない昆虫の,前脚,中脚,後脚,頭胸部で形態の比較解析を行い,上記の3つの進化過程の有無を検証し,捕脚の形態進化の特徴を明らかにした.
結果,いずれの部位においても形態の平均と分散に有意差はなかった.一方,前脚,後脚,頭胸部形態の進化方向が有意に類似していた.したがって,捕脚を獲得することによって生じる形態の類似は,進化方向の類似によることが明らかになった.しかし,進化方向の系統間の類似は強くないため,捕脚を持つ昆虫の形態は多様であることも同時に示された.水生系統を除くと前脚と頭胸部で進化方向の類似度が上昇したことから,形態が多様であることの一因として,生息環境の違いが示唆された.
系統間で類似した捕脚の獲得に伴う形態進化として,前脚の基節の伸長と跗節の短縮がみられた.これは,狩りの射程距離を伸ばすと共に,狩りに不要な跗節を短縮したと考えられた.また,後脚では腿節と脛節が伸長し,捕食の際に移動する体の重心を支持していると考えられた.さらに,細長い前胸背板と頭部幅の伸長は,伸長した前脚基節を収納できるようにすると共に,複眼の間隔を広げて奥行き認知能力を向上させたと考えられた.