| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-305 (Poster presentation)
アブラムシがアリに甘露を提供し、その見返りとしてアリがアブラムシを外敵から守るという相利共生はよく知られている。しかし、アリはアブラムシを捕食することもしばしばある。クチナガオオアブラムシ属は最大7mmの体長と、その2倍に及ぶ長い口吻をもち、野外では必ずアリに随伴されている(アリ絶対共生)。これまで、アブラムシの口吻長は寄主植物の種や摂食部位に適応して進化してきたと考えられてきた。しかし、共生するアリによる捕食がアブラムシの口吻長の進化に与える影響については見過ごされてきた。本研究では「クチナガオオアブラムシ属の長い口吻はアリによる捕食を回避するために長大化した」、という仮説を検証するため、アリによる捕食がよく観察されるクヌギクチナガオオアブラムシに注目し、口吻長が短いアブラムシ個体がアリによって選択的に捕食されているかを調査した。
7本のクヌギそれぞれの幹上に形成された7つのクヌギクチナガオオアブラムシのコロニーについて、アリによって捕食されたアブラムシ個体を回収し、捕食されずに生存していた個体と口吻の長さを比較したところ、捕食されたアブラムシ個体は生存個体よりも口吻が短く、体サイズの指標である頭幅によって口吻長を補正した相対口吻長(口吻長/頭幅)も短いことが判明した。さらに、相対口吻長が平均して短いアブラムシコロニーほど、アリによる捕食頻度が高い傾向があることがわかった。一方、捕食が頻繁に起きていた2つのアブラムシコロニーそれぞれの内部では、アリによって捕食された個体と生存個体の間で、口吻長、及び相対口吻長に有意な差は無かった。以上の結果から、アリからの選択的捕食は、クチナガオオアブラムシの口吻長の長大化に集団スケールで寄与していることが明らかになった。