| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-307  (Poster presentation)

性的対立による有性生殖の維持: ネギアザミウマを用いた検証【A】
Effect of harmful males for the maintenance of sex in thrips tabaci【A】

*工藤達実, 長谷川英祐(北海道大学)
*Tatsumi KUDO, Eisuke HASEGAWA(Hokkaido Univ.)

有性生殖の進化は、進化生態学に残された大きな謎の1つである。特に異型配偶子接合では、直接子を生産しないオスを生産するため、性比が1:1の場合は増殖率が無性生殖の半分になってしまう(オス生産のコスト)。にもかかわらずなぜ多くの生物で異形配偶子接合が進化・維持されているのだろうか。異形配偶子接合は同型配偶子接合から進化したとされるが、その起源は、1つの配偶子あたりへの投資を極端に小さくして相手の資源に寄生するオスの裏切りであると考えられる。オスは他個体より多くの配偶子を生産できるのに加え、生じた段階では性比が極端にメスに傾いているため、性投資比が1:1になるまでオスは有利で、急速にオス遺伝子は広がるだろう。しかし、性投資比が平衡状態になった後は、オス生産のコストが存在するため、二次的に生じる無性生殖の侵入を防ぐことができない。これまで多くの実証研究が行われてきたが、有性生殖のメリットがこのコストを上回る例は見つかっておらず、多くの生物で有性生殖が維持されている理由は不明であった。我々は、オスのメスの対する有害な繁殖行動が、無性メスだけに大きな適応度コストを与えることで無性メスの侵入を阻害しているという仮説(性的対立仮説)を、有性系統と無性系統が同所的に存在するネギアザミウマという昆虫を用いて検証した。1匹のメスと同居させるオス数を操作し、オス数がメスの生存日数に与える効果を生殖型間で比較した。その結果、無性メスはオス数が多いほど生存日数が短くなったのに対し、有性メスの寿命には有意な変化がみられなかった。これは、オスの行動によって、無性メスだけが有性メスよりも大きなコストを負っていることを示唆しており、性的対立仮説を支持するものと考えられる。今後、オスが無性メスへ与えるコストが有性の不利さを補えるほど大きいのかを検証する必要があるだろう。


日本生態学会