| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-309 (Poster presentation)
擬態は、自然選択が生み出した顕著な現象であり、生物間のコミュニケーションの視点からも注目を集めている。ベイツ擬態においては、捕食者に対する保護形質を持たない種(ミミック種)が、毒やまずさなどの保護形質を持つ他種(モデル種)に似ることで適応度を上げる。捕食者と保護形質を持つ種からなる2者系においては、ある条件の下では、捕食者の学習を介してシグナルが目立たない地味な状態から目立つ派手な方向に進化する(警告シグナル)ことが知られている。捕食者は、獲物を特徴づける形質(シグナル)と保護形質を関連づけて学習することで、食べられる獲物と食べられない獲物を区別する。この2者系に保護形質を持たないミミック種が加わったベイツ擬態におけるモデル種とミミック種のシグナルの共進化は、十分に検討されていない。ミミック種は、モデル種に擬態して捕食者を騙すことで生存上の利益を得るが、モデル種が派手な場合には、同時に捕食者に発見されるリスクも上昇する。また、モデル種はミミック種から逃げる方向にシグナルを進化させる可能性も考えられ、共進化の帰結を直観的に予想することは難しい。
そこで、本研究では、ベイツ擬態におけるシグナルの進化ダイナミクスを、既存の連想学習に関するモデルと量的形質の遺伝モデルを組み合わせた数理モデルを構築して検討した。予備的な計算においては、たとえば、最初にモデル種のシグナルが地味な場合には、ミミック種の存在はモデル種のシグナルの派手さをある程度促進した。しかし、モデル種の信号の派手さがある閾値を超えると、再び地味な方向へと進化するといったパタンを見出した。発表では、さまざまな条件の下での解析を進め、ベイツ擬態ダイナミクスの全体像について議論したい。
キーワード:捕食者の学習能力、ベイツ擬態、警告シグナル、量的形質、コミュニケーション