| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-310 (Poster presentation)
性選択に関連する形質は,交尾前(雄間闘争等)と交尾後(精子競争等)に分類することができ,これらへの資源投資はRRV(残存生殖価)とトレードオフ関係にあると考えられている.この関係性に生活史を考慮すると,若齢時の性選択形質への投資を抑制し,老齢時の投資を増加させるべきであると考えられる.この理論の実証研究例として交尾前の性選択に焦点を当てたものが多く存在するが,交尾後の性選択に関してはほとんど存在しない.従って,本研究では交尾後の性選択である精子競争においても若齢時の投資抑制と老齢時の投資量増加がみられるかどうか,コクヌストモドキ(Tribolium castaneum)を用いて調査した.
精子競争能力はコクヌストモドキ黒色系統雄(顕性遺伝,sperm defender)と茶色base系統雄(潜性遺伝,sperm offender, focal male)の2雄と順に交尾した茶色base系統雌の子世代の茶色個体の割合,すなわちP2値で評価した.そして,focal maleを加齢させながらP2値の測定を行うことで加齢の影響を調査した.
調査の結果,P2値は加齢に伴って減少し,予測したような若齢時の投資抑制と老齢時の投資増加がコクヌストモドキ雄の精子競争では起こらないことが分かった.
仮説とは反対に,相対的な成虫生存早期の精子競争能力の高さと後期の低さが現れた原因として,精子競争への投資のコストが小さいという可能性と,コクヌストモドキ雄の交尾前後の性選択形質への投資がトレードオフ関係になっている可能性が挙げられる.これらの検証のために今後,精子競争への投資のコスト解明と交尾前性選択形質に対する加齢の影響を明らかにする必要がある.
今回の実験方法では排除できていない要因が複数存在するため,加齢に伴う投資減少を結論付けるには早い可能性があるが,交尾後の性選択においてはコストに対応した生存早期の投資抑制と後期の投資増加が起こらないことが新たに明らかとなったため,本研究は進化生態学的に重要な研究であるといえる.