| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-311  (Poster presentation)

Csf1シグナル経路の多面的作用を介したグッピーの色彩装飾形質の進化【A】【B】
Evolution of colorful ornamentation in the guppy mediated by pleiotropic effects of Csf1 signaling【A】【B】

*川本麻祐子, 石井悠, 河田雅圭(東北大学)
*Mayuko KAWAMOTO, Yuu ISHII, Masakado KAWATA(Tohoku Univ.)

グッピーのオスは黒や青、白、オレンジ色の鮮やかな体色をもち、メスはオレンジスポットの面積と彩度を重視して配偶者を選択する。オレンジスポットは子孫に遺伝する生存力の指標となることで、配偶者選択の基準にされる装飾形質として進化したと考えられている。本研究ではオレンジスポットと生存力との関係を成立させる分子的・遺伝的基盤の解明を目的とした。
まずオレンジスポット形成時にはたらく遺伝子を調査するため、オスの皮膚でRNA-seqによる遺伝子発現解析を行った。オレンジスポット部分とスポット以外の部分での遺伝子発現を比較した結果、オレンジ部分ではCsf1シグナル経路関連遺伝子が高発現していることが明らかになった。Csf1シグナル経路は体色に加えて免疫力との関連も知られることから、次にCsf1シグナル活性がオレンジスポットと免疫応答とに与える影響を調査した。Csf1シグナル活性阻害剤での処理前後で体色を比較した結果、処理後にはオレンジ面積と彩度の値が有意に減少することが確認された。さらに、Csf1シグナル阻害群とコントロール群においてLPSで免疫応答を誘発し、皮膚の遺伝子発現をRNA-seqによって測定した。免疫刺激を与えた際の遺伝子発現の変化をCsf1シグナル阻害群とコントロール群のそれぞれで検出したところ、コントロール群でのみ免疫刺激により炎症や抗炎症反応に関与する遺伝子発現量が増加していた。また、コントロール群では免疫刺激時にアポトーシス抑制にはたらく遺伝子の発現量が低下していたことに対し、Csf1シグナル阻害群ではアポトーシスを誘導する遺伝子発現が増加していた。以上の結果から、オレンジスポットはCsf1シグナル活性の反映を介して正常な免疫応答の指標として機能する可能性が考えられる。


日本生態学会