| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-313  (Poster presentation)

カニの移動方向はどのように進化したのか?:現生種情報を用いた祖先形質の復元【A】【B】【E】
Evolution of movement directions in crabs: restructuring the ancestral state from the behavioral traits of extant species【A】【B】【E】

*谷口隼也(長崎大学, 国立高雄科技大学), 井上翼(長崎大学), 黃榮富(国立高雄科技大学), 平井厚志(エビとカニの水族館), 水元惟暁(沖縄科学技術大学院), 竹下文雄(北九州市立博物館), 河端雄毅(長崎大学)
*Junya TANIGUCHI(Nagasaki Univ., NKUST), Tsubasa INOUE(Nagasaki Univ.), Jung-Fu HUANG(NKUST), Atsushi HIRAI(Susami Crustacean Aquarium), Nobuaki MIZUMOTO(OIST), Fumio TAKESHITA(KMNH), Yuuki KAWABATA(Nagasaki Univ.)

 カニは十脚目短尾下目に属する甲殻類であるが、他の動物にほとんど類を見ない横方向に移動することで知られる極めて珍しい動物である。しかし、カニがなぜ横に動くのかに関する知見は乏しい。メカニズムの観点からの研究では、関節の構造上前方に移動することが困難であることから横方向に移動指向性があると報告されている。一方で、系統進化の観点からカニがどのように横方向に動くという形質を進化させてきたのかについては、これまで研究例がなかった。そこで本研究では横/前に移動する現生種の進行方向を系統樹と合わせて解析し、カニの進行方向の進化プロセスを明らかにすることを目的とした。
 まず100種余りのカニについて、円形プール内で10分間ずつ、それぞれの種が移動する様子を、ビデオカメラで上方から撮影した。次に、撮影した映像から、体軸に対する進行方向の頻度を算出し、カニが横/前のどちらの方向に移動指向性を持つのか判別した。さらに、Genbankデータベース上にミトコンドリア全ゲノムの記載がある種に関して新たに分子系統樹を作成し、移動指向性の判別結果と合わせて祖先形質を推定した。
 移動指向性の解析の結果、横移動が49種、前移動が22種だった。また、祖先形質は前移動であると推定され、アサヒガニやホモラ科は前移動を祖先から受け継いでいた。一方でEubrachyura類は、早い段階で横移動を一度獲得した後、ミナミコメツキガニやクモガニ科など複数の異なる系統で二次的に前移動に戻る先祖返りをしたと推定された。また、横移動の進化は前移動の進化より少なく、横移動の進化が革新的で起こりにくい現象であることが示唆された。


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