| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-315  (Poster presentation)

オナガザル科グエノン類の混群形成集団における遺伝子浸透【A】【B】【E】
Gene introgression in the mixed-species population of guenons, the family Cercopithecidae【A】【B】【E】

*北山遼(北海道大学), 峠明杜(京都大学), 橋本千絵(京都大学), 五百部裕(椙山女学園大学), 今井啓雄(京都大学), 古市剛史(京都大学), 早川卓志(北海道大学)
*Haruka KITAYAMA(Hokkaido Univ.), Akito TOGE(Kyoto Univ.), Chie HASHIMOTO(Kyoto Univ.), Hiroshi IHOBE(Sugiyama Jogakuen Univ.), Hiroo IMAI(Kyoto Univ.), Takeshi FURUICHI(Kyoto Univ.), Takashi HAYAKAWA(Hokkaido Univ.)

熱帯アフリカの森林部に同所的に生息するグエノン類のアカオザルとブルーモンキーは近縁でニッチが酷似しているにも関わらず、地域によっては混群を形成し、ともに遊動や採食をおこなう。この2種における混群の成立要因として、これまで行動生態学的な立場から「採食効率の向上」や「捕食者の回避」といった仮説が提唱されてきたが、未だ完全には理解されていない。そこでグエノン類の種分化と種間交雑の過程に注目した。グエノン類は霊長類の中でもとりわけ適応放散が著しいグループであり、その多様性は種分化過程における複雑な種間交雑によって獲得されたと考えられている。実際、アカオザルとブルーモンキーも場合によっては交雑し、妊性があるF1個体が生まれることが報告されている。種間交雑とそれに伴う遺伝子浸透は、ときに進化を促進する大きな原動力となりうる。種分化と混群形成の進化の過程で、何らかの条件下では種間交雑が有利にはたらいた可能性を考え、2種間での地域特異的な遺伝子浸透の有無を検証した。2種の混群が恒常的に観察されるウガンダ共和国カリンズ森林において、2003年から2019年までの期間に採取されたグエノン類の糞便サンプルからゲノムDNAを分析した。ミトコンドリアゲノムDNAの塩基配列解析および、次世代シークエンサーを用いたエクソーム(全遺伝子コード領域)の塩基配列の網羅解析をおこなった。その結果、混群をつくるカリンズ森林のアカオザル集団からブルーモンキー集団への、集団特異的な遺伝子浸透が検出された。浸透候補遺伝子は、ヒトの相同な遺伝子では発達や認知に関係していることが指摘されているものであった。浸透遺伝領域中にはアミノ酸置換を伴うカリンズ森林集団固有の塩基変異が確認され、当該遺伝子の機能が変異している可能性が示された。このような種間で共有される変異が、種間の認知や行動の類似を起こし、2種の共存を可能にしているのかもしれない。


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