| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-318 (Poster presentation)
社会性昆虫は血縁個体が集合したコロニーを生活史の単位とし、コロニー全体として統制の取れた利他行動に基づく社会システムを構築する。しかしながら、個体の利益とコロニー全体の生産性は必ずしも一致せず、個体の利己性による対立がコロニーの生産性を低下させる場合がある。このような個体レベルの適応とコロニーレベルの生産性の対立は、複数の階層に選択が働く状態における進化のモデルとなり得る。
社会性昆虫のヤマトシロアリでは、女王が有性生殖の卵と単為生殖の卵を産み分け、単為生殖によって産まれた娘が次世代の女王になる。この単為生殖では娘は母親の一方のアリルをホモで有するため、一方のアリルが単為生殖を行いやすい形質をコードする場合、こうしたアリルはコロニー内で複数世代に渡って生じる女王継承において有利になると考えられる。その一方で、過剰な単為生殖卵の生産は必要以上の生殖カーストをコロニーが抱えることにつながるため、こうした形質はコロニーに不利益をもたらす利己的なものであると言える。
本研究では、上記のような利己的形質の進化の帰結の理解を目的として、コロニー内の競争とコロニー単位の生産性を考慮した集団遺伝モデル及び個体ベースモデルによる解析を行った。その結果、個体の利己性はコロニー内競争とコロニー単位の生産性の影響の強さに応じて特定の値に収束することが示され、特にコロニー内競争の効果が強い場合にはコロニー単位の生産性を著しく低下させる形質が進化することが明らかになった。コロニー内競争の効果とコロニー単位の生産性による選択の効果の相対的な強度はコロニーの規模や寿命に依存するという結果も得られており、こうしたコロニー単位の戦略や生活史の進化が個体の利己性とコロニーの生産性のバランスによって方向付けられる可能性が示唆される。