| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-319  (Poster presentation)

イトヨにおける回遊多型を生み出す内分泌基盤【A】【E】
Endocrine basis for migratory polymorphism in stickleback fish【A】【E】

*神部飛雄(国立遺伝学研究所, 総合研究大学院大学), 日下部誠(静岡大学), 細木拓也(国立遺伝学研究所), 森誠一(岐阜協立大学), 大場理幹(東京大学), 阿部勝徳(東京大学), 北野潤(国立遺伝学研究所)
*Kanbe HIYU(National Institute of Genetics, SOKENDAI), Makoto KUSAKABE(Shizuoka University), Takuya HOSOKI(National Institute of Genetics), Seiichi MORI(Gifu Kyoritsu University), Satoki OBA(The University of Tokyo), Katsunori ABE(The University of Tokyo), Jun KITANO(National Institute of Genetics)

海水域と淡水域は、生物的・非生物的な環境要因の双方が大きく異なるため、魚類が海水と淡水の間で生息地をシフトするためには複数の形質を変化させる必要がある。ホルモンは、複数形質を同時に変化させることから、ホルモンシグナル関連遺伝子の変化が生息地シフトに重要であると考えられる。特に甲状腺ホルモンは、代謝や浸透圧などの調節に関わることから、甲状腺ホルモンシグナル伝達系の変化は多様な生息地への適応に重要であると考えられる。
この仮説を検証するため、回遊多型が存在するイトヨ3型(回遊型のニホンイトヨ、回遊型のイトヨ海型、淡水型のイトヨ)をモデルとして用いた。本研究では、これら3型の甲状腺ホルモンシグナルがどのように異なるのかという内分泌基盤を明らかにし、さらにその遺伝基盤の解明を目指す。
まず、3型の室内飼育実験を実施した結果、ニホンイトヨとイトヨ海型は降海行動のタイミングである体⻑ 30 mm前後で甲状腺が発達し、体長に比して頭長・体高の成長率が増加した。一方、イトヨ淡水型ではこの変化は見られなかった。また、イトヨ海型を甲状腺ホルモン処理したところ、頭部の伸長が誘導されたことから、形態の変化に甲状腺ホルモンが関与していることが示唆された。
また、淡水メソコスムでニホンイトヨを半年以上にわたって飼育したところ、甲状腺腫が生じた。このような甲状腺腫はイトヨ海型・淡水型で観察された例はない。淡水域は甲状腺ホルモン合成に必須なヨウ素が少なく、魚類はヨウ素不足により甲状腺ホルモンを大量に合成できなくなるため、ニホンイトヨの下垂体から甲状腺ホルモンを合成するべく甲状腺刺激ホルモンが大量に分泌され、甲状腺腫を誘発したと推測された。
今後、イトヨ3型で甲状腺腫の発生率の差異を確認し、QTL解析にて回遊型と淡水型の甲状腺ホルモンシグナルの違いを生む遺伝基盤を特定する。


日本生態学会