| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-321 (Poster presentation)
環境勾配に沿った生物の形質傾度は、しばしば適応進化の証拠とみなされる。モデル植物シロイヌナズナArabidopsis thalianaに近縁なミヤマハタザオ A. kamchatica は、中部山岳地域の0 ~ 3000 m という幅広い標高に分布し、標高間で形質が異なることが知られており、標高適応の生態学的・遺伝的メカニズムを理解する上で興味深い材料である。これまでに、高標高ほど花茎に毛がある個体が多いことや、毛の有無はGL1遺伝子の多型で説明できることが知られている。しかし、標高以外の気象要因が毛に与える影響や、毛と系統との関係性は明らかになっていない。本研究では、ミヤマハタザオの葉・花茎の毛がどのような環境に適応進化したのか明らかにするために、(1)毛の有無や密度は標高や気象などのどの環境要因と関係があるのか、(2)無毛型は進化的に派生的なのか、を明らかにすることを目的とした。
中部山岳地域の標高2 ~ 2949mに分布する35集団の各1個体のさく葉標本を用い、花茎と葉の毛の密度を測った。そのうち28集団については、野外で採取されたシリカゲル乾燥葉各20個体から葉毛の密度の計測をした。これらのサンプルと、過去に測定されたデータも加え、標高と気象要因が毛の有無・密度に与えている効果を解析した。既に得られている45集団のうち毛の測定を行った32集団の系統樹と現在の形質から祖先形質を推定した。
その結果、(1)既に知られていた花茎の有毛個体割合と葉身の毛密度だけでなく、葉毛の有毛個体割合も高標高ほど高いこと、夏季の降雨が少ない場所で有毛個体割合が多い傾向があることが分かった。(2)GL1遺伝子に大きな挿入が入ることで無毛形質になることが知られており、有毛型が祖先形質であるはずだが、今回の系統解析からは祖先形質は有毛と無毛の混合と推定された。これは、有毛・無毛の祖先多型があったこと、有毛から無毛への平行進化が様々な集団で歴史的に頻繁に繰り返されてきたことを意味しているのかもしれない。