| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-322  (Poster presentation)

近縁なシロチョウ2種間の生態的分化:野外における食草利用とゲノム比較から探る【A】
Different host plant use and comparative genomics between two closely related Pieris butterflies【A】

*須田崚, 岡村悠, 土松隆志(東京大学)
*Ryo SUDA, Yu OKAMURA, Takashi TSUCHIMATSU(The University of Tokyo)

Pieris melete(スジグロシロチョウ)とP. napi nesis(ヤマトスジグロシロチョウ)はともに日本国内に同所的に分布する近縁なシロチョウである。これら2種は形態が非常に似ており、どちらの種の幼虫もアブラナ科草本を食草とすることが知られている。先行研究により2種は遺伝的には明確に分化していることが明らかになっていたが、種判別の困難さや遺伝情報の不足から、野外において両種の共存を可能とするような種間の詳細な生態的差異や、それに関連した両種の進化的な背景は明らかになっていなかった。そこで本研究では、PCR-RFLP法を用いた簡便な種判別法と全ゲノムシーケンスデータを用いて、①両種の幼虫の野外における食草利用パターンの解明、②種間で選択を受けている遺伝子の探索、そして③Pairwise sequentially Markovian coalescent(PSMC)モデルを用いた個体群動態の種間比較を行った。アブラナ科植物の構成が異なる2地点において採集した両種の卵や幼虫をPCR-RFLP法により種判別し、食草ごとに利用するシロチョウの種構成を調べたところ、野外ではこれら2種の食草構成に有意差があり、両種は異なる食草を使い分けていることが明らかになった。また、種間で自然選択を受けた遺伝子を網羅的に探索した結果、消化に関わる可能性のある遺伝子でdN/dS値が有意に高く、正の選択が働いていることが示唆された。さらにPSMCの結果、過去の個体群動態は種間で異なっており、P. meleteではP. napi nesisと比較してより大きな集団が維持されてきたことが推定された。これらの結果から、近縁で形態や分布の類似したP. meleteP. napi nesisとの間には野外で異なった食草を利用するという生態的な違いが示唆され、これは遺伝的な差異や異なる集団の歴史を辿ってきた過程を反映している可能性がある。今後はより多くの時期や地点での野外調査や食草の進化的歴史との比較を行うことで、生態の違いが生み出された過程を詳細に解明できると考えられる。


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