| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-323 (Poster presentation)
地球温暖化に伴って生物の分布がより寒冷地へ移動する現象が報告されている。こうした分布の変化がどの程度起こりやすいのかを理解するためには、生物の分布がどのように決定されるのかを理解する必要がある。生物の分布拡大を制限するメカニズムの一つに、非対称な遺伝子流動が挙げられる。非対称な遺伝子流動とは、ハビタット間での個体数の違いによって個体や配偶子の移動が非対称となり、より個体数の多いハビタットに適応的な表現型が個体数の少ない他のハビタットにも拡散しやすくなることである。その結果、分布の周縁部にある個体数の少ないハビタットでは局所適応が妨げられ、それ以上の分布拡大が難しくなってしまう。しかし、個体の移動が非対称であったとしても、繁殖よりも前に局所不適応な個体が淘汰されていれば、局所不適応な表現型は遺伝しにくく、局所適応は妨げられにくくなると考えられる。そこで、本研究では個体にかかる自然選択が生存率と繁殖力のどちらか一方のみにかかるシミュレーションモデルを構築し、自然選択のかかり方によって個体の移動が生物の分布の広さに与える影響は異なることを明らかにした。自然選択が繁殖力にかかる場合、選択圧が強いと個体の移動が起こりやすくなるにつれて分布は制限されやすくなる結果が見られた。一方、自然選択が繁殖までの生存率にかかる場合、選択圧が強くても個体の移動が起こりやすくなるのに伴う生物の分布の制限はほとんど見られなかった。この結果から、非対称な遺伝子流動による分布の制限は主に繁殖力に自然選択がかかっており、局所的に不適応な個体でも繁殖期まで生存できるような状況で有効であると考えられる。さらには自然選択が繁殖力にかかっているような生物では、温暖化に伴う分布の変化が進みにくく、絶滅リスクが高くなる可能性があると考えられる。