| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-324 (Poster presentation)
種分化様式の一つである生態的種分化では、異なる生態環境への適応が分岐選択を引き起こし、種分化が進行すると考えられている。今回注目する植食性昆虫では、進化の過程で新たな寄主植物を利用する集団が生じる寄主転換に伴う寄主適応の分化が生態的種分化に貢献してきたと考えられている。本研究で用いた鱗翅目ホソガ科のクルミホソガAcrocercops transectaには、クルミ科を寄主とするクルミレースとツツジ科のネジキを寄主とするネジキレースが知られている。クルミレースの交配活性はクルミ科植物の非存在下では低下し、ネジキレースのメスは交配が起こる時間帯にネジキ上に留まる傾向があるため、寄主への特殊化が交配前の隔離障壁を引き起こしている。しかし、クルミ科植物とネジキは、互いの葉が重なるほど近接して生育していることもしばしばあり、寄主植物の存在に依存しない交配前隔離機構もレース間に生じていれば、両レースはより強固に隔離されるだろう。そこで、寄主植物の情報が利用できない条件下で選択交配実験を行ったところ、メス1頭(いずれかのレース1頭)とオス2頭(各レース1頭ずつ)の組み合わせでは同系交配が頻出したが、メス2頭(各レース1頭ずつ)とオス1頭(いずれかのレース1頭)の組み合わせでは同系交配と異系交配は同等に生じた。続いて、赤外線カメラを用いて暗期から明期にかけて行われる配偶行動を撮影したところ、メス1頭の組み合わせでは、同じレースのオスが特にアプローチをしていた一方、メス2頭の組み合わせでは、オスは手当たり次第に両方のメスにアプローチする傾向が見られた。よって、オスは同じレースのメスに特に反応するが、アプローチされる側のメスは相手オスのレースを区別できていない可能性が考えられる。