| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-325 (Poster presentation)
宿主選択は寄生生物の適応度に大きな影響を与える。タナゴ類は純淡水魚であり、二枚貝に産卵する。カイビルは二枚貝に寄生するヒルであり、タナゴ類の卵を捕食することで、体色が茶色から黄色に変色する(西野ほか投稿中)。本研究では、アブラボテ・メスがカイビルの寄生数が多い二枚貝を避けて産卵するという仮説に基づいて、野外で検証実験を行った。
滋賀県立大学内の水路で5月から7月に実験を行った。まずケージ(縦1.62m×横2.43m×高さ0.51m)を1つ用意し水路内に静置した。次に、オス間闘争において優位なオス(体長51±3.3mm)と劣位なオス(体長35±2.2mm)をそれぞれ5匹ずつとメス20匹をケージに入れ、3日間環境に慣らした。その後1個体あたり5匹のカイビルを寄生させたマツカサガイ(高密度処理)と無処理の同種(低密度処理)をそれぞれ5個体ずつ用意し、砂利を敷き詰めた受皿(直径21㎝×高さ3.8㎝)に1個体ずつ入れ、ケージ内に静置し実験を開始した。水中カメラを用いて、タナゴ類の行動をそれぞれの貝を映した状態で撮影し(70~110分/日、9日間連続)、メスの産卵行動とオスが貝に縄張りを形成した日数を計測した。実験開始から2週間後、貝を回収して解剖し、タナゴ類の胚の数、通常色と黄色のカイビルの個体数を計測した。同実験を3回繰り返し行なった。
貝を解剖した結果、タナゴ類の胚および黄色のカイビルは、低密度処理区のみで観察された。一方、行動観察の結果では、メスの産卵行動は、低密度処理区で15個体中10個体の貝に対して計25例、高密度処理では15個体中4個体の貝に対して計4例観察された。これらの結果により当初の仮説は支持された。また縄張り形成は優位オスでのみ確認され、その日数はメスの産卵が確認された二枚貝ほど長かった。すなわち、オスの行動に基づいても、メスはカイビルの寄生密度が低い二枚貝に産卵することが結論付けられた。