| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-326 (Poster presentation)
ウイルスは宿主に感染し増殖する寄生体であり、その中には、サテライトウイルス(サテライト)と呼ばれる特別な生活史を持つウイルスが存在する。サテライトは、同じ宿主に共感染したヘルパーウイルス(ヘルパー)と呼ばれる別種のウイルスの持つ遺伝子産物を利用(搾取)することで、新たな子孫ウイルスを産生する。
サテライトはヘルパーに依存して存在しているが、逆にヘルパーにとっては、サテライトはどのような存在なのだろうか?サテライトがヘルパーの感染に干渉する場合には寄生的、逆に有利に働く場合には相利共生的な存在になると考えられる。従って、サテライトとヘルパーが安定的に存続する条件は、両者の疫学的な形質(例えば、ヘルパーとサテライトの感染力)によって定まっていると考えられる。つまり、両者が安定的に共存する条件を調べるためには、それぞれの形質の進化、および、疫学動態を考慮することが必要である。
本研究ではヘルパー・サテライトの進化疫学動態を調べるために、サテライトに普遍的な疫学動態を表現する数理モデルを構築した。モデルの特徴として、サテライトは、ヘルパーと同時に宿主間を伝播するが、その一部は抜け落ちる。さらに、サテライトは、ヘルパーに単独感染している宿主に超感染(superinfection)することができる、とした。平衡状態のパターンは、両者が絶滅する平衡点におけるヘルパー、サテライトそれぞれの基本再生産数、および、ヘルパー単独存在平衡点におけるサテライトの基本再生産数によって分類可能である。高い感染力を持つサテライトがいる場合には、サテライト存在下のみでウイルスが存続可能になる場合がある事がわかった。特に、興味深い場合として、サテライトがヘルパーに有利に働く場合には、疫学平衡状態に後退分岐が生じ、双安定性が存在する事がわかった。本発表では、両者の疫学形質の進化を考慮し、進化的安定性や進化の帰結についても議論したい。