| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-327  (Poster presentation)

クジラ目の水棲適応に伴う宿主-腸内共生微生物のゲノム共進化【A】【B】【E】
Genome co-evolution of host-gut microbiome through cetacean aquatic adaptation【A】【B】【E】

*Hayate TAKEUCHI(Env. Hokkaido Univ.), Takashi Fritz MATSUISHI(Fisheries, Hokkaido Univ.), Takashi HAYAKAWA(Env.Earth, Hokkaido Univ.)

宿主動物は自身に直接的に適応的な形質を進化させずに、腸管構造などの腸内共生微生物の適応度に影響する形質を頻繁に進化させる。脊椎動物は植物中のセルロースなどの自身では分解できない成分を、腸内共生微生物に依存して栄養として利用している。海洋に再進出した鯨類は、自身では消化が困難な脂質であるワックスエステルを利用しており、これには腸内微生物が寄与する可能性がある。
マッコウクジラはイカ墨のように捕食者回避用の黒色の煙幕を張ることが知られている。マッコウクジラの煙幕は糞に由来しており、「巨大結腸」と呼ばれる膨大構造に黒色糞を蓄積させているが、腸内微生物が黒色糞を生成するかを調査した事例はない。
異なる種から遺伝子を獲得する「遺伝子水平伝播(HGT)」は微生物進化の重要な駆動要因である。環境に先に適応している環境微生物から腸内微生物へのHGTは、鯨類の海洋への迅速な適応を促進しうる。
本研究では、数理モデル、クジラ6種の腸内共生微生物の網羅的遺伝子機能解析(ショットガンメタゲノム解析)、微生物培養実験から、宿主の進化に腸内共生微生物のゲノム進化が果たす役割を検討した。
腸内微生物の個体群動態決定論的モデルと宿主動物の個体確率論的モデルは、先に環境適応している微生物と腸内微生物間HGTが、適応的な微生物の繁栄に寄与することを示唆した。また宿主に利益を提供する腸内微生物が、腸内微生物に適応的な宿主形質の進化を促進することが示された。鯨類腸内容物の網羅的遺伝子機能解析は、海洋微生物からのHGTにより獲得した脂質分解酵素遺伝子の活性が非常に高く、クジラ目のワックスエステル利用に重要な役割を果たすことを示唆した。マッコウクジラ糞からの黒色色素生成微生物の培養は、クジラ墨生成に腸内微生物が寄与することを示した。これらの結果は、世代交代時間の短い微生物のゲノム進化が微生物-宿主動物間の協調進化を形成することを示唆する。


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