| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-334 (Poster presentation)
毒を持つ外来種は侵入先の捕食者を瀕死や中毒死させる場合があり、今日では深刻な外来種問題の1つとして捉えられている。その一方で、自然界には毒をもつ動植物を摂食し、その毒を自身の防御毒として再利用する“餌毒の二次利用”を行う動物が幅広い分類群で確認されている。そのため、多くの在来捕食者にとって脅威的存在と化している有毒外来種が、一部の在来種にとっては重要な毒源となることも考えられる。日本に生息するヤマカガシは、毒ガエルとして知られるヒキガエルを食べ、その毒そのものを、あるいは一部を構造変換して頸腺と呼ばれる器官に防御用毒(頸腺毒)として蓄積し、“餌毒の二次利用”を行うヘビである。頸腺毒を有する本種はその頸部を天敵に意図的に提示する頸腺依存的な対捕食者行動を頻繁に行う。佐渡島にはヤマカガシが在来種として生息する一方、頸腺毒の毒源となるヒキガエルは生息していなかった。しかし、1964年にアズマヒキガエルが国内外来種として持ち込まれ、現在は島南西部のみに定着している。そこで本研究では、“外来種による在来種への毒供給”という新規な外来種インパクトが起こり得るのかを確かめるために、佐渡島のヒキガエル未侵入地域と侵入地域におけるヤマカガシ個体群に着目して、①外来ヒキガエルを毒源として利用しているのか、②ヒキガエル侵入地域では頸腺依存的な対捕食者行動をより頻繁に行うのかの2つについて比較検証を行った。その結果、ヒキガエル未侵入地域では0/25個体、侵入地域では14/24個体で頸腺毒が検出され、アズマヒキガエルを毒源とするヤマカガシ特有の毒成分も検出された。対捕食者行動においては、ヒキガエル未侵入地域で逃避の頻度が多く、侵入地域では頸腺依存的な行動が多かった。本研究より、外来種による在来種への毒供給が起こり得ることが確かめられ、佐渡島ヤマカガシ個体群では対捕食者行動にも変化が生じている可能性が示された。