| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-337 (Poster presentation)
外来種アライグマが引き起こす問題の一つに、在来種への感染症伝播がある。特に、イヌ科動物に致死的症状を引き起こすイヌジステンパーウイルス(Canine Distemper Virus: CDV)感染症は、北米において、アライグマが主要なレゼルボア(感染巣)とされている。本州では2005年以降、CDV抗体陽性のアライグマが確認されているが、北海道ではまだ調べられていない。そこで本研究ではアライグマをモデルとして、道央地域のCDV感染症の流行状況を把握し、その流行に影響を与える要因を明らかにすることを目的とした。まず、2007~2012年、2021・2022年に捕獲されたアライグマ計611個体の血清サンプルを用いCDVに対するウイルス中和試験を行った。その結果、各年のCDV抗体陽性率は、2007年は33%、2008~2012年では6.1%以下となった。一方、2021・2022年では46%と高かった。次に、高い陽性率が確認された2007年および2021・2022年について、個体数密度指標(CPUE)、性別・年齢(個体要因)、森林・農地・住宅地面積率・水涯線長(環境要因)とCDV抗体陽性との関連をロジスティック回帰分析により検討した。その結果、2007年ではCPUEとCDV抗体陽性との間に正の影響が認められ、アライグマの個体数密度が高いほど、CDV感染症は流行しやすいことが示唆された。環境要因については、2007年では森林面積率、2021・2022年では住宅地面積率で正の影響が認められたことから、森林周辺域で収まっていたCDV感染症の流行が、近年ではアライグマ個体数の増加により住宅地付近にまで及んでいると考えられた。以上より、北海道において高密度で生息するアライグマによりCDVが維持され、同所的に生息するタヌキやキツネ、住宅地の飼い犬にもCDVが広がり被害を及ぼす可能性が懸念される。