| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-355 (Poster presentation)
水田生態系の保全を考える上で,農薬がもたらす生態影響の理解は欠かせない.一方で,進行が著しい地球温暖化を考慮すると,今後,農薬と温度上昇が生態系に同時に作用する可能性がある.実験室条件下では,温度上昇により農薬の毒性が強化されるとの知見が集積されつつある.しかし,多種の生物が複雑に関係しあう野外の生物群集において両要因の複合影響を評価した事例はほとんど存在しない.そこで本研究では,農薬と水温上昇の有無を制御した野外実験から,両要因が水田生物群集に与える影響を評価した.その際,種多様性や個体数などの指標に加え,餌の種類や採餌方法に基づいた「摂食機能群」に着目して解析を行い,捕食-被食関係などの生物間相互作用を介した両要因の複合影響プロセスの検出を目指した.試験の結果,農薬と水温上昇の複合影響下では,農薬と水温上昇の単独影響下と比べ,摂食機能群の組成が異なるだけではなく,ほぼすべての機能群で種数が減少するなど,生物群集に対する両要因の複合影響を摂食機能群の単位で検出することができた.さらに,両要因が各機能群の密度と種数に与える影響を推定すると,捕食性昆虫(トンボなど)とデトリタス食者(イトミミズなど)への影響が顕著にみられた.なかでも,農薬処理による捕食性昆虫の減少に続いてデトリタス食者が増加するといった,農薬を介した捕食者からの解放に類する傾向が確認できた.すなわち,摂食機能群に着目したリスク評価を行うことで,農薬と温度上昇の複合影響プロセスのひとつとして,捕食-被食などの相互作用を介した間接影響の存在が関与している可能性を見出すことができた.環境ストレスに対する生態影響評価において,生物間相互作用の考慮は必須である.その意味でも,本研究で着目した摂食機能群レベルでの評価単位が,より実態に即した生態リスク評価手法の構築に向けた,新たな一歩となることを期待したい.