| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-358 (Poster presentation)
従来、クマ類の年齢推定には、歯根部のセメント層に形成される層を数える方法が主に用いられてきた。しかし、この手法は、歯を抜く必要があるため動物への侵襲性が高く、高齢個体になるほど正確な推定が難しくなるといった欠点を有する。近年、DNA修飾機構の一つであるDNAメチル化の度合いが加齢に伴い変化するDNA領域があることが発見され、年齢推定の指標となることがヒトをはじめとした様々な動物種で報告されている。
本研究は、ヒグマの血液由来DNAを用いて、メチル化率を指標とした新規年齢推定法を確立することを目的とした。年齢が明らかであるエゾヒグマを対象として、のぼりべつクマ牧場で飼育されている2~34歳の飼育個体34個体と、知床半島で生体捕獲した0~26歳の野生個体15個体より血液を収集した。各個体の血液より抽出したDNAをBisulfite処理した後、解析対象とした12のDNA領域をPCR法で増幅し、パイロシークエンス法でメチル化率を解析した。得られた値をもとに、単回帰、重回帰の一種であるElastic Netおよびサポートベクター回帰(SVR)を利用した3つの年齢推定モデルを確立した。この結果、SLC12A5遺伝子の近傍に位置する領域において年齢とDNAメチル化率が特に強く相関しており、この領域のメチル化率を用いたSVRモデルが最も高い精度となった(平均絶対誤差:1.3年)。
本研究により、クマ類においてDNAメチル化率を指標とする年齢推定法が初めて確立された。この手法は性別にかかわらず高精度であり、さらに血液を用いるため侵襲性が低いこと、また、短時間での測定が可能で熟練した技術が不要である点で、歯を用いた推定法よりも有用である。さらに、本年齢推定モデルを活用することによって、クマ類の生態学的研究や保全・管理に貢献すると考えられる。