| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-359 (Poster presentation)
生物多様性保全を含む地球規模の環境問題に対処するためには、個々人の行動を広く変える(行動変容を促す)ことが重要である。既存研究から、自然との触れ合いは生物多様性保全行動(以下、保全行動)の重要な駆動因であることが示唆されている。しかし、これまで自然体験の「量(頻度)」と保全行動の関係性は調べられてきたが、「質(強度)」との関連は不明な点が多い。そこで本研究では、日本における幼少期の自然体験の頻度と強度(経験した自然体験の種類数)と成人期の保全行動の関係性を明らかにすることを目的とした。
2022年に4,000人を対象としたWebアンケート調査を行った。本アンケートでは、大きく(1)幼少期の自然体験の頻度および強度(体験の種類数)、(2)保全行動の実施程度(18の行動)、(3)保全行動に影響し得る個人属性の3つを聞き取った。解析では、自然体験の頻度・強度が増えるにつれて、各保全行動の実施確率(自然体験を全く行わなかったグループを基準とした際の調整済みオッズ比により評価)がどのように変化するのかを調べた。
今回調べた全ての保全行動において、自然体験頻度と強度は保全行動の実施確率と正の関係を示した。行動の実施確率は自然体験頻度と強度の両方で単調増加がみられた。保全行動ごとに多少の結果の違いは見られたが、調整済みオッズ比の値は自然体験頻度よりも強度の方が高かった。また全ての行動で、自然体験が持つオッズ比の値は、その他の個人属性の値よりも高かった。
本研究では、幼少期の自然体験と保全行動の間に密接な関係があることを見出した。解析では、両者の間の因果関係は特定するに至らなかったが、この結果は多様な自然体験を経験することが、生物多様性保全に向けた行動変容を推進する上で重要な役割を担う可能性を示唆している。講演では、生物多様性保全行動と自然体験の間に正の関係が見られた理由や保全に向けた指針について議論する。