| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-365 (Poster presentation)
草原は生物多様性が高いが、世界各地で減少しているため、優先して保全すべき多様性の高い草原の特定が急務である。我々のグループでは、草原の継続期間が長いと特有の生物群集が形成されることや生物多様性が高まることを報告してきた。蝶類では、過去から現在まで継続して草原として維持されてきた歴史の古い草原の面積によって群集が変化することを明らかにした。本発表では、蝶類の時間・空間的連続性から受ける影響とそのメカニズム解明を目指した。
草原間の蝶の移動について、歴史の古い草原で指標種として検出されたジャノメチョウ・古い草原で多いが草原全体の指標種として検出されたヒョウモンチョウ・草原全体で個体数の多いヒメシジミを対象に、各2~4地点で1回2時間の標識再捕獲を3~6日行い、Jolly-seber法で個体群サイズを推定した。
ジャノメチョウは105頭標識され、そのうち6再捕獲された。推定個体群サイズは1560。ヒョウモンチョウは標識数78、再捕獲数11、推定個体群サイズ182。ヒメシジミは標識数440、再捕獲数28、推定個体群サイズはが2550だった。個体数のピークは、ジャノメチョウは8月27日、ヒョウモンチョウは7月13日、ヒメシジミは7月12日だった。3種あわせて計623個体を標識し計45個体を再捕獲したが、3種ともに500 m以上離れた地点間での移動は見られなかった。しかし、ヒョウモンチョウでは地点内で約100 mの移動が1件検出された。これらから、草原間の移動は活発でなく、調査地点の蝶群集はその周辺の環境を反映していると考えられる。
また、標識再捕獲の対象種から生存率に影響が出ないとされる方法で後翅の一部を採取し、DNAを抽出してMig-seq法による過去の移動の解析を行っている。