| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-367  (Poster presentation)

クワガタムシ科昆虫3種の保全系統地理学的研究【A】【B】【E】
Conservation phylogeography of 3 stag beetle species (Coleoptera, Lucanidae)【A】【B】【E】

*海野太一(筑波大学), 湯本景将(筑波大学), 後藤寛貴(静岡大学), 津田吉晃(筑波大学)
*Taichi UMINO(Univ. of Tsukuba), Keisuke YUMOTO(Univ. of Tsukuba), Hiroki GOTOH(Shizuoka Univ.), Yoshiaki TSUDA(Univ. of Tsukuba)

 クワガタムシは幅広い世代層に人気の高い昆虫であるが、近年では国産、外国産を問わず多くのクワガタムシが気軽に購入できるようになったことから、飼育下から野外へ逃げ出したクワガタムシによる各地域の野生集団への遺伝子汚染が危惧されている。しかし、国内クワガタムシの複数種については野生集団の遺伝構造が明らかになっていないため、遺伝子汚染を評価するための参照データがないことに加え、重点的に保全すべき地域集団の情報もない。そこで本研究では、遺伝子汚染のリスクに晒されている国内クワガタムシの保全に向けて、国内に広く分布するヒラタクワガタ(Dorcus titanus)、コクワガタ(Dorcus rectus)およびノコギリクワガタ(Prosopocoilus inclinatus)の3種の遺伝構造を明らかにすることを目的とした。具体的には全国から採集したこれら3種のミトコンドリアDNAの16S rRNA遺伝子領域の塩基配列を解読し、得られた塩基配列情報をもとに集団遺伝学的解析を行なった。その結果、ヒラタクワガタでは15ハプロタイプ、コクワガタでは37ハプロタイプ、ノコギリクワガタでは15ハプロタイプが検出され、遺伝的分化程度についてはヒラタクワガタとノコギリクワガタではある程度の分化が見られたのに対し、コクワガタでは分化が弱いことがわかった。また、遺伝構造については、ヒラタクワガタとノコギリクワガタでは地理的なパターンが見られたのに対し、コクワガタでは地理的なパターンは見られず、一斉放散型パターンが示唆された。現状では、いずれの種でも産地の異なる雌個体の逸出に起因する野生集団の遺伝構造への攪乱の影響はみられなかった。ただし、今回解析に用いたミトコンドリアDNAは母性遺伝のため、今後は両性遺伝する核ゲノムも対象とすることで、より詳細な遺伝構造の評価を行うとともに、雌雄両方の逸出個体の検出、逸出個体と野生集団との交雑など遺伝子汚染について検証していく予定である。


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