| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-370 (Poster presentation)
ヒュウガホシクサは熱帯から亜熱帯に分布し、国内では宮崎県川南湿原のみに記録されている。しかし、本種の生育は湿原の植生遷移と乾燥化の進行により、1958年を最後に絶滅した。その後2004年に湿原の環境復元が実施されたことにより、2008年に約50年ぶりとなる本種の生育が確認された。その後、本種は国および県で絶滅危惧ⅠA類に、さらに種の保存法に選定された。本研究では本種の保全・保護のため重要課題である種子発芽特性を明らかにすることを目的とした。本種の種子の最大発芽率は、無処理区・0.6 %、低温湿層処理30日区(5 ℃・暗)・2.0 %、低温湿層処理60日区・93.2 %、 埋土区(生育地・埋土深5 cm・10月から3月)・62.2 %が観察された。また各温度・暗条件を60日間経験した種子は、発芽環境35 ℃明条件下で10 ℃区・85.4 %、15 ℃区・15.8 %、20 ℃区・1.6 %、25 ℃区・0 %の発芽率が観察された。このことから本種の種子は10 ℃以下の低温を60日間経験することにより解除される休眠を持つことが明らかになった。低温湿層処理60日区の明条件における本種の種子は15 ℃区・0 %、20 ℃区・4.4 %、25 ℃区・48.6 %、30 ℃区・62.6 %、35 ℃区・93.2 %、15 /25 ℃区・16.8 %、20 / 30 ℃区・60.8 %の発芽率が観察された。本種の種子の発芽可能温度域は20 ℃から35 ℃、発芽適温は35 ℃であることが明かになった。低温湿層処理60日の暗条件における本種の種子は25 ℃区・0 %、30 ℃区・13.6 %、35 ℃区・23.2 %、15 /25 ℃区・17.2 %、20 / 30 ℃区・22.4 %の発芽率が観察された。このことから本種の種子は光発芽性を持つことが明らかになった。生育地で10月に埋土した種子の発芽率は35 ℃明条件下で3月下旬で62.2 %、回収後10 ℃暗条件・60日間経験した種子で87.2 %が観察された。このことから生育地において埋土された種子の25 %は、結実翌年の春季には発芽しないことが推察される。これらの発芽特性から本種の種子は、永続的埋土種子集団を形成すると考えられる。